SWOT(スウォット)分析は、自社の課題や改善点、新規事業の将来性などを客観的に把握できるため、多くの企業で採用されている重要なフレームワークです。
ビジネス環境が変化する中で、SWOT分析は自社の強み・弱みを理解し、新たなビジネスチャンスを発見するための優れたツールと言えます。
そこで本記事では、SWOT分析の基礎知識やメリット、成功させるためのコツなどを分かりやすく解説します。
ビジネスの改善や成長、さらに新たなアイデアを探している方には、必見の内容となっていますので、ぜひご覧ください。
SWOT分析とは
SWOT(スウォット)分析は、自社やブランドの内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を分析するツールです。
経営戦略立案や現状分析、将来予測に役立つ重要なフレームワークで、事業の状況を客観的に把握し、自社の競争力を高めるために活用されます。
頭文字がSWOTとなることから一般的にSWOT分析と呼ばれています。
SWOT分析の4つの項目
A、内部環境分析 | |
強み(Strength) | 競合他社と差別化できる点や唯一無二の技術など 製品品質、技術、ブランド、人材などの強み |
弱み(Weakness) | 競合他社より劣る点や苦手としていることなど 製品品質、技術、ブランド、人材などの弱み |
B、外部環境分析 | |
機会(Opportunity) | 自社にとってチャンスとなり得る市場環境の変化など 市場やニーズの変化などで、事業にとってプラスになる要素 |
脅威(Threat) | 外的な影響を受けて、自社にとってマイナスに働く要素 市場やニーズの変化などで、事業にとってマイナスになる要素 |
A、内部環境における強みと弱み(W)は、自社や自社製品・サービスに影響を与える内部環境の要素です。
例えば、消費者の認知やブランド、品質や価格、立地、人材の数や質、ノウハウなどが挙げられます。
B、外部環境における機会(O)と脅威(T)は、自社や自社製品・サービスに影響を与える外部環境の要素です。
例えば、業界全体の市場規模と成長性、国内経済の状況、流行や話題性、周辺の環境、競合企業の動向などが挙げられます。
SWOT分析の目的
SWOT分析は、自社の経営戦略やマーケティング戦略を立てることを目的としています。競合他社と比較して現状や将来性を把握し、新たなビジネスチャンスを見つけたり、事業撤退を判断したりするのに役立ちます。
さらに、市場やニーズに合った商品開発や将来の外部環境に対応した事業計画を立てたり、自社の内部環境を見直すのにもSWOT分析は使われます。
SWOT分析が時代遅れではなく重要な理由
SWOT分析は決して時代遅れではありません。今でも非常に重要で、ビジネス環境が変化し続ける現代こそ、自社の課題や新たな可能性を把握し、戦略的な意思決定を行うための貴重なツールとなっています。
特にコロナウイルスやメタバースのような予測不能な問題が増える中で、SWOT分析の価値はさらに高まっています。
また、SWOT分析は経営者だけでなく、従業員やコンサルタントと協力して分析結果を共有することで、組織全体で事業を進める際に共通の視点を持つことができます。
例えば、営業部門であれば、顧客の市場を理解することで、自社の商品がどのように活用されることで顧客の課題を解決できるか、他社との差別化を図る方法など、環境をSWOT分析して理解しておくことで、多様な提案が可能になるでしょう。
また、生産部門であれば、新しい設備の導入や人員配置を現場の視点でSWOT分析することで、市場での位置づけを改善できる可能性を上層部に示すことができます。その結果、生産性が向上し、売上が増加することも考えられます。
このように、SWOT分析は異なる業界や業態で活用できる非常に有益な手法です。
SWOT分析と他のフレームワークとの違い
SWOT分析と似たフレームワークに、「3C分析」「BSC(バランススコアカード)」があります。
これらをSWOT分析と組み合わせることで、戦略内容を補強することができます。SWOT分析とこれらの手法の違いについて説明します。
3C分析との違い
3C分析とSWOT分析は、どちらも自社の内部環境・外部環境を把握するためのフレームワークですが、それぞれの目的と視点が異なります。
3C分析は市場・顧客、自社、競合の3つの指標を分析して市場競争の状況を理解し、差別化点を見つける手法です。
一方、SWOT分析は自社の強みや弱みに加えて、機会や脅威も考慮することで、将来のチャンスや危機に対して明確な行動計画を立てることができます。
また、3C分析は主に「市場・顧客」を対象にしているのに対し、SWOT分析は「自社」を主軸に据えていますから、前者の方が、市場や顧客のニーズを理解し、市場競争の状況を把握して差別化点を見つけるのに適しています。
BSC分析との違い
BSC(バランススコアカード)分析は、経営戦略をバランスよく実現するためのフレームワークです。
財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点で業績評価を行い、組織の成長と競争力を向上させることが目的です。
SWOT分析で導いた戦略を、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4視点で整理することで、より実践的な戦術に落とし込んでいく役割を果たします。
具体的には4つの分野ごとにKPI(業績評価指標)を設定し、重要成功要因→業績評価指標→アクションプラン・現場の業務に反映させることにより、達成状況を把握しながら、目標達成までの過程を管理できます。
このように、SWOT分析は組織の内外の要因をシンプルに分析し、バランスよく評価する手法ですが、さらにBSCや3C分析と組み合わせることで、戦略内容を補強することができます。
企業は、これらの分析手法を組み合わせることで、より効果的な経営戦略を立案することができます。
SWOT分析のタイミング
SWOT分析は誰でも簡単にあらゆる目的のために利用できる汎用的なフレームワークです。企業が効果的に活用するための適切なタイミングは以下の通りです。
- 外部環境の変化
- 内部環境の変化
- 戦略の構築(戦略の立案前)
- 競合調査
それぞれの詳細について解説します。
外部環境の変化
外部環境に大きな変化がある場合、SWOT分析を行うことが重要です。円安やコロナパンデミック、AIの台頭、法律の改正などからわかるように、わずか数年で外部環境は大きく変わることがあります。
日々目まぐるしく変化する外部環境に対応するためには、定期的にSWOT分析を実施し、現状を把握することが必要です。市場の変化に柔軟に対応するため、SWOT分析は貴重なツールとなります。
内部環境の変化
内部環境の変化はSWOT分析の重要なタイミングです。社長交代や優秀な人材のリクルート、最先端技術の開発など、自社のリソースに変化がある場合、SWOT分析を積極的に行いましょう。
内部環境は常に変化しており、投資額の増加や独自の技術の開発、人材の増減なども影響を与えます。
内部の変化に対応するために、継続的なSWOT分析を行い、自社の弱点を補強し、強みをさらに発展させることで企業の競争力を強化していきましょう。
戦略の構築(戦略の立案前)
戦略立案前には、外部の脅威や機会を把握すると同時に、自社の強みや弱みを見つけて適切な対策を考えることが重要です。
戦略立案前にSWOT分析を行うことで、戦略の質を向上させ、事業における潜在的な損失を回避できます。
これにより、新たな事業計画や戦略の立案がより成功しやすくなり、ビジネスチャンスを効果的に捉えることができます。
競合調査
競合調査にSWOT分析を活用することで、自社の市場ポジションを明確にし、差別化や戦略立案に役立つヒントを得ることができます。
また、新規事業のチャンスを見つけ出すことで、新たな戦略の考案にもつながります。フレームワークを活用して多角的に情報を整理することで、競合の強みや弱みを把握することが大きな鍵となります。
SWOT分析のメリット・デメリット
SWOT分析のメリットは、「自社やブランドを客観的に捉えて分析できる」点です。また、デメリットは、「分析者の考え方や立場によって結果が変わる可能性がある」点です。
それぞれを理解して、自社の目的に応じてうまく活用することが重要です。予め問題を予測し、対策を事前に立てることで、スムーズに分析することが可能となります。
この章ではSWOT分析の有益性を確認するために、メリット・デメリットのそれぞれの項目について解説します。
SWOT分析のメリット
SWOT分析の最大のメリットは、自社の状況をより客観的に把握できるので、経営上のさまざまな課題を改善できる点です。また、ビジネスチャンスをつかむうえでも無くてはならないツールです。
具体的なメリットとして、以下の5点が挙げられます。
- 強み・弱みを把握できる
- 将来のリスクを回避できる
- 事業の改善点が見つかる
- ビジネスチャンスを捉えられる
- 新規事業のリスク考察に役立つ
それぞれの詳細について解説します。
強み・弱みを把握できる
SWOT分析の1つ目のメリットは、「強みや得意分野を見つけ最大限に伸ばしたり、弱みの発見により改善策の考案ができる」ことです。
SWOT分析によって情報を整理すると、これまでは気づかなかった強みと弱みが見つかることもあります。
自社の強みと弱みを把握し、内部環境を理解することで、見過ごしていた強みを発見して商品開発や経営戦略に活かすことができます。
さらに、弱みをカバーしながら売り上げ向上や新規顧客獲得に取り組むと同時に、攻撃を回避する対策も立案できます。
これにより、自社の強みを最大限に生かし、売り上げ向上や新規顧客獲得に取り組みつつ、自社の弱点に対して攻撃を回避する対策も取ることができます。
将来のリスクを回避できる
SWOT分析の2つ目のメリットは、「脅威や弱みの把握により自社事業の潜在的なリスクを把握し、それに対する対策を講じられる」ことです。
SWOT分析により、外部環境の「脅威」を洗い出して将来のリスクを把握できます。このリスク把握は具体的な回避策の立案に役立ちます。
また、SWOT分析では、自社の強みや機会などポジティブな要素と、弱みや脅威などネガティブな要素を同時に分析します。
それにより、攻めの戦略と守りの戦略の両方を考えることができます。
例えば、「強み×機会」では、仕入れ量を増やすなど攻めの戦略を立てつつ、「弱み×脅威」でリスク回避策を考えることができます。
事業の改善点が見つかる
SWOT分析の3つ目のメリットは、「組織の内部状況と外部環境を総合的に評価することで、事業の改善点を見つけられる」ことです。
自社の「弱み×脅威」をしっかりと分析することで、事業の改善点を発見できます。例えば、「弱み」や「脅威」によって売り上げが減少することがあります。
同様に、「強み」や「機会」を十分に生かせない場合、売り上げが思うように伸びないことが考えられます。
このような場合には、迅速で効果的な対策を実行する必要があるでしょう。これにより競争力や組織力を向上させることができます。
ビジネスチャンスを捉えられる
SWOT分析の4つ目のメリットは、「新たな市場や顧客ニーズの発見、競合他社の弱点の発見など、ビジネスチャンスを発見できる」ことです。
SWOT分析は、ビジネスチャンスを捉える手段として重要です。
自社の強みを活かし、市場やニーズの変化を考慮することで、新しいビジネスチャンスや新規事業のアイデアを見つけることもできます。
例えば、「強み×機会」を分析することで、事業を積極的に展開するタイミングを把握できます。一方、「弱み×脅威」を知れば、弱みをカバーしチャンスを逃さないための対策を講じられます。
弱みを改善して強みに変えることで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。
新規事業のリスク考察に役立つ
SWOT分析の5つ目のメリットは、「外部要因と内部要因の分析により、新たな事業のリスクを評価でき、リスクの最小化につなげられる」ことです。
SWOT分析は客観的な視点から外部環境を分析することで、事業のリスクを予想できます。これを利用して、新規事業のリスク考察をすることも可能です。
既存事業だけではなく、新規事業の立案にも活用できるのがメリットです。
SWOT分析のデメリット
SWOT分析は、完璧なフレームワークではありません。
デメリットとして以下の2点が挙げられます。
- 分類にあてはまらない要素もある
- 偏りが生じやすい
それぞれの要素について解説していきます。
分類にあてはまらない要素もある
SWOT分析は、強み、弱み、機会、脅威の4つの要素に基づいています。
しかし、現実の事業状況や環境は必ずしもこれらの分類に当てはまらないこともあります。
また強みと考えられる要素も、別の視点では弱みとなるケースもあります。
例えば、販売価格の安さは「強み」ともいえますが、利益の少なさが「弱み」ともいえます。
具体的には「サービスの値段が5万円する」は、高級路線(差別化路線)で捉えれば強みですが、相場よりも高いと捉えれば弱みになります。
SWOT分析において、これら要素の分類が明確でない場合は、他のフレームワークを併用するなど柔軟な対応が必要です。
偏りが生じやすい
SWOT分析のデメリットとして、情報収集や分析作業を行う担当者の立場や知識によって偏りが生じやすいことが挙げられます。
ある要素がどの分類に適しているかは、個々の主観に左右される部分もあります。
例えば、製造部門の担当者が行う場合、技術面に焦点を当てがちになる可能性があります。
このような偏りを避けるためには、異なる部門の担当者から意見を聞いたり、従業員や開発者などの意見を聞くことが重要です。
また、クライアントや顧客からの意見を取り入れたいときは、アンケート調査をする方法もあります。
外部環境を分析するときも、特定ではなく複数の媒体を活用するようにしましょう。
幅広い知識を持つ人々の意見を取り入れることによって、より客観的かつ総合的なSWOT分析が可能となります。
SWOT分析のやり方
SWOT分析では、客観的に顧客層、市場、そして自社の現状を判断し、明確に把握することが重要です。SWOT分析の手順は、主に以下の3つのステップで進められます。
- 分析目標の明確化
- 内部環境の分析【強み・弱み】
- 外部環境の分析【機会・脅威】
それでは手順について詳しく解説していきます。
step
1分析目標の明確化
SWOT分析を行う際には、まず明確な目標を定めることが重要です。新規事業のリスク評価や既存事業の改善点の発見などがSWOT分析の目標に含まれます。
例えば、商品やサービスの売上向上を目指す場合には、具体的な売上を設定すれば、より効果的な分析と戦略立案が可能になります。
目標やビジョン、数値目標、KPI(業績評価指標)、GPI(進歩指標)などを具体的に定めて、一貫性のある分析を行いましょう。
step
2内部環境分析
内部環境分析では、自社の「強み」と「弱み」を調査し、それらを正確に把握することが大切です。
分析に際して、次のような項目を調査します。
- インフラ
- 認知度・ブランド力
- 資源
- 立地
- サービス
- 価格
- 品質
- 技術力
強み(Strength)を見つける
「強み」とは、簡単に言うと自社の利点やアドバンテージです。
他社との違いや競合他社よりも優れている点、お客様が商品を選ぶ理由や利点、そして高品質な製品や優れた技術力、ブランド力、財務力、人材、製品ラインナップなどが「強み」になります。
具体的には、次の項目が「強み」になります。
- 強固なブランド力による顧客からの信頼
- 豊富なノウハウと経験による競争優位性
- 優れたカスタマーサービスと顧客満足度
- 効率的な生産体制とコスト管理
- 優秀な人材とチームの力
このような強みを見つけるには、組織内の優れた特長やリソースを明確に把握することが大切です。
強みは自社の担当者だけでリストアップすると偏りが生じることがあるため、客観的な意見も取り入れる必要があります。
その際、「競合他社との比較」「従業員へのヒアリング」「顧客の声を聞く」などの手法が有効です。
それぞれの詳細について解説します。
競合他社との比較
競合他社との比較を通じて、自社の差別化ポイントや独自の技術、蓄積されたノウハウなどを洗い出します。
自社と競合の状況を事実ベースで書き出すことが重要です。また、競合店の視察や競合商品の利用、競合社のサイト確認などを行い、他社との差別化ポイントを把握しましょう。
これにより、自社の商品・サービスの強みや弱みをより理解しやすくなります。
従業員にヒアリングする
社内のさまざまな部署の従業員に話を聞くことも大切です。カスタマーサポート、製造担当者、営業、マーケティング、経理など、各部署の視点が違うため、意外な発見があるかもしれません。
また株主や顧問税理士などの第三者の意見も重要な参考情報となります。
従業員の意見を尊重すべき理由
SWOT分析において、従業員の声を無視する経営者の方もいますが、実際には従業員が日々自社の製品に一番触れています。また、顧客からのフィードバックも彼らが受け取っていますから、従業員の意見に耳を傾けることは重要です。
顧客にヒアリングする
顧客へのヒアリングから強みを把握することは重要です。商品やサービスを購入してくれるにはそれなりの理由があるわけで、それが自社の強みになっている場合が多いからです。
例えば、BtoBであれば、取引先の担当者に直接「自社の商品を採用した決め手」や「競合製品を採用した理由」を聞くなどするとよいでしょう。
また、BtoCの場合は、アンケートなどを通じて顧客の声を聞くのも良いでしょう。ただアンケートの場合、当たり障りのない意見も多くなり、本当のことが分かり難いといったデメリットもあります。
そこでお勧めしたいのが、自社のWebサイトを訪問するユーザーの検索語句の分析です。検索キーワードには顧客の意図が現れていることが多く、自社の強みを把握するのに適しています。
弱み(Weakness)を見つける
「弱み」とは、改善が必要なところ、つまり競合他社にあって自社にはない点や自社が苦手としていることなどです。
例えば、企業の技術力、ブランド力、財務力、人材、製品ラインナップなどに見つかる欠点や不十分な部分が「弱み」に該当します。
これには、「技術力が競合他社に比べて不足している」や「ブランド力が弱く、顧客信頼度が低い」などが含まれます。
具体的には、次の項目が「弱み」になります。
- 技術力が低く、競合他社に比べて遅れをとっている
- ブランド力が弱く、顧客からの信頼が薄い
- 市場へのアプローチが不十分で、顧客のニーズに対応できていない
- コスト効率が低く、競合他社と比べて価格競争で不利
- 顧客満足度が低く、リピートビジネスの機会を逃している
弱みも「競合他社との比較」や「従業員・顧客からのフィードバック」を通じて見つけ出すことができます。
ただし、弱みと脅威は混同しやすいため注意が必要です。
自社の弱点や短所が「弱み」です。例えば、「品質が低い」や「販売価格が高い」は、企業努力により改善できるので「弱み」といえます。
一方、競合・市場・ニーズの変化によるマイナス要因が「脅威」です。
例としては、「少子化でターゲット層が減っている」や「競合他社の新商品にシェアを奪われた」などは、外部環境による影響なので「脅威」となります。
SWOT分析の革新的な活用法
SWOT分析では、どのような目的を持ち、誰をターゲットにするかによって、弱みに見えるものが強みに変わることがあります。
例えば、作物を収穫するのに必要な人手が足りないという弱みがある農家を想像してみましょう。
その弱みを、事業の目的を「収穫体験を楽しむ」サービスを提供するという新しい方向に転換すると、人手不足はむしろ人件費の節約という強みに変わるかもしれません。
これは極端な例かもしれませんが、弱みと強みは裏表一体とも言えます。だからこそ、弱みをポジティブに捉え直し、それをSWOT分析に取り入れることは重要です。
内部環境分析に役立つフレームワーク
内部環境を評価するための方法として、「VRIO分析」と「バリューチェーン分析」などのフレームワークが存在します。SWOT分析とこれらの手法を組み合わせることで、より深く自社の強み・弱みを把握することが可能です。
VRIO
「Value(経済的価値)」「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の4観点で分析します。
自社の経営資源が競合他社に対してどれくらい優位に立っているかを理解することができます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、原材料の調達から製造、出荷、販売、そしてサービスまで、製品を作る一連の過程を分析し、各ステップや機能での問題点や強みを明らかにする手法です。
各部分を個別に分析することができるため、競争相手と比べた際の自社の強みを見つけたり、業務の効率向上に役立てることができます。
step
3外部環境分析
外部環境分析では、自社がコントロールできない要素、例えば市場の変化、社会の状態、法律、流行などを調査します。
これらの要素が自社にどのような影響を及ぼすのか、すなわちそれらがチャンス(機会)となる可能性があるか、それともリスク(脅威)となる可能性があるかを分析します。
外部環境要素の例として、次の項目が挙げられます。
- 国内の景気や金利
- 政治動向
- 人口動態
- 技術革新
- 流行やトレンド
- 競合企業の動向
- 法律
- 市場規模
- 市場の成長性、衰退性
- 業界の市場規模・成長性
機会(Opportunity)を見つける方法
「機会」の分析では、社会や市場の変動から自社にとってのチャンスを見つけ出します。
具体的には、市場の成長や新技術の出現、規制の緩和といった、外部環境におけるポジティブな要素、つまり自社の事業にプラスの影響を及ぼす内容について洗い出します。
例えば、「新興国市場の拡大により、新たなビジネスチャンスが生まれる」、「環境問題への関心の高まりにより、環境に配慮した製品の需要が高まる」などのようにです。
また、直近の政治動向で注目されているのは「AI戦略2022」で、これにより国内のAI利用が活性化し、AIに関連するビジネスに大きなチャンス(機会)が生まれています。
脅威(Threat)を見つける方法
「脅威」を見つけるためには、自社の強みを脅かす可能性のある市場の動向や競合他社の行動、隠れた危険など、自社でコントロールできないマイナス影響を与える外部要素を探します。
「機会」と同じように、大局的な視点と具体的な視点の両方から、問題点を明らかにすることが重要です。
例えば、ロシアのウクライナ侵攻は、一企業の力では防げない大きな脅威となりました。
この出来事は原油価格や穀物価格の高騰を引き起こし、世界中の多くの事業に負の影響を与えました。
つまり、自社の努力だけで解決できないような外部要因が「脅威」となります。
その他にも、「新興国市場の不安定化により、ビジネスリスクが高まる」、「競合他社の技術革新により、市場シェアを奪われる恐れがある」などが脅威として考えられます。
クロスSWOT分析
クロスSWOT分析は、SWOT分析で明らかにした要素に基づき、実践的な戦略を構築するフレームワークです。
「強み」を最大限活用し、「弱み」を補い、「機会」を捉え、「脅威」から身を守るための戦略です。
この方法を採用することで、自社の内部・外部環境を総合的に考察し、現状の理解を深めることができます。
また、企業の目標に最適な戦略を効果的に見つけるのにも役立ちます。
クロスSWOT分析における要素の組み合わせは4通りで、それぞれの戦略の概要と呼び方は以下のとおりです。
SWOT要素を結びつけるクロス分析
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強み×機会(積極化戦略) | 「機会(ビジネスチャンス)」を獲得するために、自社の「強み」をどのように伸ばしていけばよいのか、必要な行動や施策を検討する。 |
強み×脅威(差別化戦略) | 市況の変化や競合の成長などの「脅威」に対して、自社の「強み」をベースに対策を検討する。競合他社からの差別化が戦略の中心となる。 |
弱み×機会(改善戦略) | ビジネスチャンスを高めるため、自社の欠点を克服する方法を模索する。弱点の克服には時間がかかるため、長期的な対策が必要。 |
弱み×脅威(防衛・撤退戦略) | 脅威となる妨害要素の干渉を最小限に抑えるため、弱みを補強する。状況によっては、事業の撤退もする。 |
次にそれぞれの戦略について、具体的に説明します。
強み×機会(積極化戦略)
強み×機会(積極化戦略)
「積極化戦略」は、強みと機会を掛け合わせることで強みを生かし、機会を最大限に活用できる戦略です。
自社の内外両方の要素が有利な状況なので、ビジネスチャンスを掴むためには優れた戦略です。
そこで、自社の「強み」を生かして「機会(チャンス)」にどう取り組むべきか、多くの視点からアイデアを出すことが大切です。
また「積極化戦略」は、リソースが限られている小規模企業にとっても重要な戦略です。
自社の強みを絞り込み、特定の分野でトップに立てば、競合他社に先んじるチャンスが生まれます。
これは、ランチェスター戦略では局所ナンバーワン主義と呼ばれ、弱者の立場からでも市場で成功を収めるための有効な戦術です。
積極化戦略の具体例
例えば、ある小売企業がSWOT分析を行なった際、その「強み」が顧客からの高い信頼と地域に密着した店舗展開だと分かったとします。
また、「機会」として見えてきたのは、潜在顧客の多くが保守的で、彼らが良く知っている店舗で商品を買うことが多いということも分かりました。
強み×機会の分析結果(例)
内部環境分析 | |
強 み | 顧客忠誠度が高い 地域密着型の店舗展開 |
外部環境分析 | |
機 会 | 潜在顧客の多くは保守的である 顔馴染みの店舗で商品を購入するケースが多い |
そして、地元に特化した価値提供を行い、現在の顧客を確保しながら新規顧客も獲得することを視野に入れるといった戦略が考えられます。
たとえば、こうした戦略を上手く活用しているのが、地域密着型の独立系書店(コミュニティ・ブックストア)です。
強み×脅威(差別化戦略)
強み×脅威(差別化戦略)
「強み」を生かして、外部環境の「脅威」の影響を最小限に抑えるための戦略です。一般的に競合他社との差別化をどのように図るかが焦点となります。
自社の強みを活かし、競合他社や市場による脅威を避ける方法を考えます。「脅威」はビジネスチャンスにもなるため、避けるだけでなく活かす方法を考えることも大切です。
競合他社との差別化ができるポイントを洗い出し、自社の強みを活かせる方法を考えましょう。
差別化戦略の具体例
例えば、スマホメーカーがSWOT分析を行った結果、強みとして革新的な技術開発力と高品質な製品が明らかになりました。
脅威としては、価格競争の激化があり、低価格帯市場ではほとんど利益が出ないことが分かりました。
強み×脅威の分析結果(例)
内部環境分析 | |
強 み | 新的な技術開発力と高品質な製品 |
外部環境分析 | |
脅 威 | 価格競争の激化している 低価格帯市場ではほとんど利益が出ない |
これに加えて、プレミアム価格の設定を行い、高価格帯市場に集中することも検討するべきでしょう。
弱み×機会(改善戦略)
弱み×機会(改善戦略)
「弱み」を補いつつ、または克服するために、機会を最大限活用する戦略です。例えば助成金を活用し、人材不足の解消や人材育成で事業拡大を狙うといった具合です。
ただ弱みを克服するのは時間がかかるため、社内での慎重な議論と段階的な実施が必要です。これにより、弱みを順次改善し、チャンスを取り逃がさないようにすることが重要です。
改善項目としては、プロセス改善、コスト削減、組織文化などが挙げられます。
改善戦略の具体例
例えば、製造業の企業がSWOT分析を行った結果、弱みとして品質管理が明らかになったとします。機会として本商材の大幅な市場拡大が見込まれたケースを考察します。
弱み×機会の分析結果(例)
内部環境分析 | |
弱 み | 品質管理が不十分 |
外部環境分析 | |
機 会 | 大幅な市場拡大が見込まれる |
ただ注意が必要なのは、弱みの改善や克服は、「競争に負けにくくする状態(機会損失を出来るだけ小さくする)」を達成することはできます。が、しかし競争に打ち勝ち、成長する目的から見れば、特に小規模企業にとっては必ずしも良い戦略とは言えないでしょう。
弱み×脅威(防衛・徹底戦略)
弱み×脅威(防衛・徹底戦略)
自社の弱みを把握し、外部の脅威の影響を最小限にするための防衛的な戦略です。この戦略では、自社の弱みを理解し、脅威を防ぐための方法を考えます。
脅威の規模によっては最悪の結果(倒産や多額の損失計上)を招く可能性もあるため、防衛策で状況にひたすら耐えるか、事業そのものを撤退するのか、といった判断も必要です。
脅威のリスクを最小限におさえるためにも、戦略をしっかり考えるようにしましょう。撤退戦略には、以下のような選択肢があります。
- 売却・合併
企業が部門を売却または合併することにより、リソースを最適化し、企業の価値を高める戦略です。売却や合併から得た資源は、他の事業部門での展開に使われることが一般的です。 - 事業の縮小
地域や市場から完全に引くのではなく、事業規模を抑えることでリスクを下げる戦略です。これによりコストを削減し、結果として収益性を向上させることが期待されます。
クロスSWOT分析のデメリット
クロスSWOT分析は、変わりゆく環境に企業がうまく対応し、競合に勝つための有用なツールです。状況に合わせて、積極化戦略、差別化戦略、改善戦略、撤退戦略の中から最適なものを選ぶことが大切です。
しかし、クロスSWOT分析は複雑になるというデメリットもあります。そこで事前にしっかりとSWOT分析で情報整理することが重要です。
また、この分析による戦略を実際の行動に移す前に、細部の見直しや具体的な計画立案、他のフレームワークとの組み合わせも重要です。市況や顧客ニーズの変化などに合わせて、定期的な戦略の見直しを行いましょう。
SWOT分析を成功させるコツ
SWOT分析を成功させるためには、次の6つのポイントを押さえることが重要です。
- 目的の明確化
- 前提条件の洗い出し
- 強みと弱み、機会と脅威の明確化
- 客観的な情報収集
- 適切なメンバー選び
- 勝つための積極化戦略
それぞれの詳細について解説します。
目的の明確化
SWOT分析で大切なのは、最初に目的と目標をハッキリさせることです。
これが不明瞭だと、分析から得られる結果があいまいになり、重要なポイントが見えなくなってしまうことがあります。
例えば、経営や事業を拡大するのであれば、具体的な目標数値と明確なビジョンが必要です。
特に、自社がどう進展していくべきかを考えるとき、業界全体や社会の中で自社がどこに位置するのかを理解する必要があります。
一方、特定の商品の発売が目的なら、どの市場で販売するのか、どんな場面で使うものなのかを明らかにすることが重要です。
その他、「事業の改善点を見つける」や「将来のリスクを把握する」などの目的に応じて分析範囲を絞り込み、効率的な分析を行いましょう。
重要なのは、「なぜ、何のために分析を行うのか」「いつまでに目標を達成させたいのか」などについて十分議論し、社内で共有することです。
そして、同じ指標の元で作業を行うことで効率よくSWOT分析を進めることが重要です。
SWOT分析の目的設定の重要性
例えば、ある小売企業が「業績向上」というあいまいな目的でSWOT分析を行ったケースがあります。
その際、強みや機会に集中しすぎて、脅威や弱みを見落としてしまいました。
結果として、競合他社の存在や新規規制の導入といった要素を無視し、市場変化に対応できませんでした。
このような失敗を避けるためには、「新規市場への進出に向けた戦略立案」などの具体的な目的を設定すべきでした。
強みと弱み、機会と脅威の明確化
機会と強み、脅威と弱みを混同しないことが重要です。機会と強みは、似ているようで異なるものです。
「機会」は社外に存在するチャンス、「強み」は自社内に存在する要素です。たとえば、学習塾を分析すると次のようになります。
学習塾SWOT分析(例)
A、内部環境分析 | |
強み | 駅に近い場所にある 講師のレベルが高い |
弱み | 広告予算に余裕がない |
B、外部環境分析 | |
機会 | 近隣に大手学習塾がない 地方からの移住で、地域の子供の人数が増えている |
脅威 | 不景気から無駄な出費を抑えたい人が増加中 |
その他にも、機会と強み、脅威と弱みの例を挙げます。
強み自社の特徴と優れた点
- 独自技術
- 老舗の人脈
- 優秀な人材
機会市場動向や技術革新による追い風
- DX市場の成長
- サブスクリプション市場の30%増
- 競合の評判低下
弱み自社の課題と欠点
- 人的リソースの脆弱性
- 予算の貧弱さ
- 営業開発力の不足
脅威外部からのリスク
- 代替品の出現
- 市場のシュリンク
- 競合店の出店
以上、機会と強み、脅威と弱みを混同してしまうと、正しい分析ができずSWOT分析が成り立たなくなるため、適切に分類するように注意しましょう。
客観的な情報収集
SWOT分析では、正確で客観的な情報を広く集めることが大切です。なぜなら、担当者や所属組織、立場によって情報や分析手法に偏りが生じる可能性があります。
誤った情報に基づいて分析を実施すると、現実離れした的外れな分析結果になってしまいます。そのため、広い範囲から正確な情報を集めることが重要です。
また自社のポジティブな側面だけでなく、ネガティブな要素にも目を向けましょう。これにより、全体の状況を客観的な視点で正確に分析することができます。
前提条件の洗い出し
SWOT分析を行う際には、常に変化する内部や外部の環境を考慮し、前提条件を明確に洗い出すことが重要です。
既に述べた「目的は何か」に加え、以下のような項目に関しても前提条件を洗い出しましょう。
- 「分析対象は何か」
- 「対象ターゲットは誰か」
- 「競合企業はどこか」
これらの前提条件により、分析の要素が大きく変わることを防ぎ、より正確な分析が行えます。
例えば、前提条件の誤りとしては、顧客のニーズを希望的観測で過大に評価してしまうといったことが挙げられます。
このようなミスを防ぐためには、数値で判断できるデータを集めるのも有効です。
ただ一方で、条件をあまり厳しいものにしないことも大切です。あまり条件を厳しくしてしまうとせっかく行ったSWOT分析の結果が全く現実的ではなくなってしまう可能性もあります。
また、もし環境が変化しても、その変動を前提に考えられるようにすれば、幅広い環境要因を取り上げて分析することが可能になります。
誤った前提条件の具体例
SWOT分析では、内部要因と外部要因の両方を評価しますが、その際に抽出した要因が間違っていることがあります。誤った前提条件での分析は、誤った戦略立案につながります。
例えば、ある製造企業がSWOT分析を行った際に、自社の強みとして「高品質」という前提で分析を行いました。
しかし、顧客視点では競合他社品と自社品には差はなく、むしろ価格面とのバランスに優れた競合品が市場で高い評価を得ていました。
問題を解決するためには、正確な情報と客観的なデータをもとに分析を行いましょう。
分析前に挙げた要因が本当に正しいのかを、市場調査、競合他社品の分析、顧客ヒアリングを行うことで信頼性を高めることが重要です。
適切なメンバー選び
SWOT分析を成功させるためには、様々な知識や経験を持つメンバーを選ぶことが重要です。
専門的なスキルが求められるため、各部署からマーケティング、営業、エンジニア、人事など、目的に合わせた最適な人材を選びましょう。これによって、広範な視野からの洞察と多様な視点が得られます。
また、分析の結果を複数のメンバーで共有することも重要です。意見や情報の交換が行われ、分析の結果がより客観的で信頼性の高いものになります。
幅広い視点を持ったメンバーの選定は、自社の強み、弱み、機会、脅威に対する具体的な考察を深めるためにも必要です。
多様な意見を取り入れる重要性
身近な人(家族や別業界の人)や社内の別事業や別部署の片の話を聞くことはとても重要です。
モノの見方は千差万別なので、できるだけ自分の属している状況から離れたところに属している人の意見を聞いてみると、違った意見を聞けて新しい見え方になるかもしれません。
勝つための積極化戦略
成長を望む場合は、自社の「強み」を中心にした積極化戦略や差別化戦略を優先することが重要です。
企業の状況によって、SWOT分析で改善や撤退戦略を選ぶこともありますが、しかし高い成長を目標とするなら、他社にはない特別な強みが必要です。
この理由はとても簡単で、その強みだけが成長を可能にするからです。
この点を理解していないと、戦略を実施したが、「成長につながらない」「効果がない」という結論になってしまいます。
そのため、先ず考えるべき点は「積極化戦略」です。その際、内部要因と外部要因をしっかり考える必要があります。
内部要因を考える上で重要な点
内部要因を考える際、大切なのは、自社が誰と競り合い、誰を対象としているのかを認識することです。この分析でよくある間違いは以下のようなものがあります。
間違いケース:A電力 (強み分析)
- 既に事業を行っている
「電力業界は厳格な規制によって制約されている。そのため、政府からの許認可が必要である。この認可には時間とコストがかかるため、既に認可を受けていることは当社の強みとなりうる。」 - 巨大なインフラを有している
「電力会社は発電所や送電網などの設備を構築するために巨額の投資が必要だ。これらの設備を建設・運用するための莫大な資金が必要である。既に所有する当社の設備は当社の強みとなりうる。」
A電力に対して競合としては、B電力やC電力になります(同業他社)。それらの競合は既に事業を始めており、インフラも持っています。そのため、①②のいずれも強みにはなりません(競合も同じものを持っているため)。
これは極端な例で書きましたが、上記のように競合が誰かを分析前にきちんと想定しなければ、「他社も同じ強みを持っている」という状況が起こります。
競合が誰であり、その競合が有していない自社の強みは何かを考えるとこが重要です。
外部要因を考える上で重要な点
外部要因の分析では、「顧客が、何を求めているのか」を理解することが欠かせません。
特に、リソースが限られた小規模企業は、顧客の隠れたニーズを「機会」としてとらえ、「自社の強みで満たせるか」を検討することが重要です。
なぜなら、隠れたニーズは、顕在化したニーズと異なり他社によっては満たされにくいため、「機会(チャンス)」となり得るからです。
また、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)は、隠れたニーズの宝庫なので注視する必要があります。
さて、外部要因分析でよくある間違いは以下の様なものがあります。
外部要因分析には、 PEST分析が良く使われます。PESTとは「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの外部環境の頭文字をとったものです。
間違いケース:社会変化(機会分析)
- 日本社会は高齢化が進んでいる。そのため、△△という需要が増える。
大きなマクロ分析で考えると高齢化が進んでいる点は間違いありません。
しかし、自社が展開している商圏は新興住宅街やタワーマンションの隣接が相次いでおり、若年層の増加が激しいという状況だったとしたらどうでしょうか。
この場合には、上記で示した変化はまったく逆の結果(脅威)になります。
考えるべきは自社が活動をする環境での変化(機会・脅威)を考えることです。
自社に関係ない外部環境変化は分析のノイズになります。この点はよく注意しましょう。
SWOT分析と強みの積極化戦略の話
このユニーク・セリング・プロポジション(USP)は会社の強みとなりますが、「どのような社長のための保険なのか」をさらに明確にする必要があります。
このようなケースの場合、顧客のニーズに焦点を当てたSWOT分析を行うことで、さらなる飛躍への道が開けるでしょう。(※USPとは、自社の強みや競合他社との違いを明確に示すもの)
SWOT分析で読み解く企業の成功事例
SWOT分析の活用は、企業の成長を促進するために欠かせません。
どうすれば効果を最大化できるのか、大手から中小企業まで、具体的な分析法とともに紹介します。
あくまで分析トレーニングとして推測したものですが、参考にしてください。
自動車会社のSWOT分析
具体的なSWOT分析について、自動車会社を例に実施します。
自動車会社のSWOT分析
A、内部環境分析 | |
強み | ・海外自動車メーカーとの提携により、グローバルな自動車メーカーとして事業基盤を固めつつある。 ・トップの方針が明確である。グローバルに生産拠点がある。 |
弱み | ・ハイブリッドカーで完全に遅れをとってしまった。 ・EV(電気自動車)量産は莫大な投資が必要なうえ、市場見通しも不明瞭なため、極めてリスクが高い。 |
B、外部環境分析 | |
機会 | ・資源国・新興国市場が成長している。 |
脅威 | ・資源国・新興国市場において、世界の主要メーカーや地場メーカーを巻き込んだ、小型車・低価格車の競争が本格化している。 ・電気自動車はガソリン車と比べて構造が単純なため参入障壁が低く、異業種から新規参入が予想される。 |
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられるでしょう。
自動車会社のクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略) | ・海外自動車メーカーとの提携によるグローバル自動車メーカーとしての事業基盤を活かす。 ・自社オンラインストアを持っており、消費者は簡単に製品を購入できる。 |
強み×脅威(差別化戦略) | ・電気自動車(EV)量産においてリスクが高いものの、トップの方針が明確であるため、この分野での競争力を維持することに努める。 ・顧客のニーズを掴んだ新たな電気自動車の開発も視野にいれる。 |
弱み×機会(改善戦略) | ・EV量産においては市場見通しが不明瞭なため、この分野で巻き返しを図る戦略を取る。(ハイブリッドカーで遅れを取った教訓を活かす) |
弱み×脅威(防衛・撤退戦略) | ・資源国・新興国市場において小型車・低価格車の競争が本格化しているため参入が難しい。 ・今後、異業種から新規参入が予想されるため撤退を視野に入れる。 |
IKEAのSWOT分析
IKEAは北欧(スウェーデン)の企業ながら日本市場で成功しており、これには独自の戦略があります。どうしてIKEAは日本で成長できたのか、SWOT分析で考察してみました。
内部環境分析
強み
- IKEAの家具はDIY(自組み立て式)で、物流や在庫のコストを低減できる。
- DIYにより、消費者にはリーズナブルな価格での購入が可能となる。
- 自社オンラインストアを持っており、消費者は簡単に製品を購入できる。
弱み
- グローバル企業のため製品規格が日本にあっていない。
- アジアでのシェアが少ない。
- 一度日本市場への参入に失敗している。
外部環境分析
- 北欧デザインやライフスタイルへの関心が高まっている。
- 通販の普及により、家具をオンラインで購入することが一般的になった。
脅威
- 日本ではDIYに抵抗を感じる人もおり、IKEA製品の購入にハードルがある。
- 日本の住宅は世界と比較すると狭く、大型家具を買いにくい。
- 既にニトリなどの有名な家具メーカーが存在する。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられました。
IKEAのクロスSWOT分析
- 北欧デザインの魅力を活かす
市場で高まる北欧デザインへの関心(機会)に応え、色のバリエーション豊かでコストパフォーマンスの高いインテリアを提供する。 - オンラインストアの活用
家具のオンライン購入の増加をチャンス(機会)としてとらえ、自社のオンラインプラットフォームを強化。これにより、消費者の購買意欲を高める。
強み×脅威(差別化戦略)
- ライフスタイルの提案
- ベッドルームなどを中心に、個々の消費者の視点からの商品展開やライフスタイルの提案を行う。
- 家具を「ライフステージに応じて変わるもの」と提案する。そのうえで、DIY式家具を販売することで、格安での購入を促す。
- DIY戦略は、物流コストの削減の観点からも効果的である。この根底には、創業時のフラットパックによる輸送コスト削減のアイデアがある。
- 顧客体験の向上
- 家具の組み立てを実際に体験できるイベントを店内で開催し、これにより顧客の購入意欲を高める。
- 店舗をエンタメ空間としてとらえ、店舗内にレストランを設けるなどして消費者に楽しい時間を提供する。
SWOT分析から明らかになったのは、IKEAが「脅威」への対処として強固な差別化戦略を築いており、これが日本市場の難局を乗り越える要因となったのではないかということです。
コメダ喫茶店のSWOT分析
日本の喫茶店業界は数多くのブランドやスタイルで競合しています。
その中でコメダ喫茶店がどのように差別化と成功を実現してきたのか、SWOT分析を通じて見ていきましょう。
コメダ喫茶店のSWOT分析
A、内部環境分析 | |
強み | ・顧客ニーズを探る姿勢 ・さまざまな店舗形態での豊富な経験 |
弱み | ・一部の新業態が長期的に成功しない |
B、外部環境分析 | |
機会 | ・街中のゆったりと居座れる空間(ちょっと贅沢なくつろぎ場所) |
脅威 | ・喫茶業界の厳しい競合、消費者の変化する嗜好 |
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行いました。
その結果から、以下のような積極化戦略が導かれます。
コメダ喫茶店のクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略) | ・ちょっと贅沢なくつろぎ場所の提供 ・地域密着型の店舗展開 ・オリジナル商品の強化 |
強み×脅威(差別化戦略) | ・顧客ニーズを掴むためのマーケティング ・実験店舗の展開を進めることで新たな「機会」を掴む |
強み×機会(積極化戦略)
コメダの積極化戦略を、その重要性でランキング形式にしました。
ちょっと贅沢なくつろぎ場所の提供
「ちょっと贅沢なくつろぎ場所」という位置づけにより、街行く人々に、気を使わないで入れる快適なリビング空間を提供しています。
具体的な「脅威」である競合のスターバックス(第3の場所の提供)とは異なる方向で、しっかり棲み分けています。
例えば、スターバックスに入る際、少し身構えてしまいますが、コメダ喫茶店ではそのような感じは受けません。
「気を遣わない、ゆったりとした居心地の良さ」がコメダの魅力ではないでしょうか。
これはおうちコメダの流れに通もじます。「おうちコメダ」とは、コメダ特製のソファやテーブルで自宅をコメダのような“心にもっとくつろぎ”を与えてくれる場所にしてしまおうというものです。
スターバックスでは、コーヒーカップやコーヒーそのもの以外に、そのような流れが起きないことから、コメダの取り組む市場セグメントがコーヒーのみの提供にとどまらない、ユニークなものであることが理解できます。
この戦略は、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上という世界的なトレンドにもマッチしています。
地域密着型の店舗展開
強みであるさまざまな店舗形態の経験を活かし、地域社会との連携を深めた店舗展開を実施。競合との差別化に成功しました。
オリジナル商品の強化
自社だけの独自メニューによって、他店との差別化を図る。
例えば、コメダのシロノワールなど、他店では味わえないオリジナルメニューを提供。
これによって、他の喫茶店との競合から一歩抜け出すことができました。
強み×脅威(差別化戦略)
コメダは、競合の多い市場環境(脅威)の中で、新しい「機会」をつかむために実験店舗の展開を積極的に進めています。
実はこの「差別化戦略」こそがコメダが急成長を遂げる礎となりました。
名古屋の地域的な喫茶店であったコメダが、外部の「脅威」に対抗しながら、「強み」を最大限に活かす戦略を地道に積み重ね結果、ここまでの成功を収めたと言えるでしょう。
QBハウスのSWOT分析(理髪店)
QBハウスは、10分1,000円で都市部の忙しい人々をターゲットにしたカット専門店です。
都市部の駅前を中心とした立地で、10分1,000円という手軽かつ効率的なカットサービスを提供しており、理髪業界の中で独自の戦略を築いています。
その成功の背景にはどのような要因が関係しているのでしょうか。
以下、そのSWOT分析の詳細をご紹介します。
内部環境分析
強み
- 時間効率
10分という短時間でのカットが可能。 - 価格競争力
1,000円というリーズナブルな価格設定。 - サービス特化
シャンプーやブロー等の余分なサービスを排除し、カットに特化。 - 運用効率
待ち時間の少なさや迅速なサービスによる高い顧客の回転率。
弱み
- サービス範囲
カット専門のため、他の美容サービスを求める顧客には応えられない。 - 変動の少なさ
サービスメニューの数が少ない。
外部環境分析
機会
- ニーズの高まり
忙しい都市生活者の中で、短時間でのサービスを求めるニーズが増加。 - 立地
都市部の交通の要所やオフィス街に店舗を展開することで、アクセスの良さを強みとして活用。(立地としてのチャンス)
脅威
- 競合の増加
同じようなビジネスモデルを採用する競合店の出現。 - 技術進化
自宅での美容ケア技術の進化や、新しい美容サービスの提供。
QBハウスのクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
都市部のさらなる要所や新しいエリアに店舗展開を積極的に進める。
ターゲット層をさらに絞り込み、特化したプロモーションやマーケティング戦略を採用。
強み×脅威(差別化戦略)
競合との差別化を図るための新しいサービスやメニューの提供。
ブランド力の強化や顧客ロイヤルティの向上を図るプログラムの導入。
QBハウスは、都市部の生活者が忙しい中、手軽に利用できる短時間カットサービスを提供しています。
その独自の強みを基に、戦略的なアプローチを推し進めることで、今後も業界での特別な役割を果たし続けることでしょう。
男前豆腐店のSWOT分析
男前豆腐店は、豆腐の既存のイメージを一新する革新的なアイデアで、新風を吹き込みました。その秘訣を知るためにSWOT分析を行います。
内部環境分析
強み
- 豆腐の再定義
「水も滴るいい豆腐」という発想でプリンのような食感を持たせた製品を開発。 - ユニークなパッケージデザイン
豆腐のパッケージに独自の工夫を凝らしている。
弱み
- リソースの減少
味の開発とデザイン・ネーミングのバランスが取れない場合は、商品のタイミングを逃してしまう。
外部環境分析
機会
- 健康志向の増加
若い世代を中心に健康やダイエットに対する関心が高まっている。 - 戦略変更がしやすい食材
豆腐はすぐに消費されるため、短期間での試行錯誤に適している。
脅威
- 豆腐市場の縮小
事業者数の減少。(豆腐を食べる人の減少) - 豆腐の固定概念
一般的に「豆腐はごく普通にあるもの」という固定観念。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行いました。その結果から、
以下のような積極化戦略が導かれます。
男前豆腐店のクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
- ユニークなパッケージデザインとその食感で、健康やダイエットに対する関心が高まっている若い世代を獲得する。
強み×脅威(差別化戦略)
- 「体によいものは、外見や味がイマイチでも仕方がない」という固定観念を覆す。
男前豆腐店のSWOT分析終え、店の独自の強みと市場の機会を活用する方法が見えてきました。市場のリスクに立ち向かうための戦略も考えられています。
これからも、伝統の豆腐市場に新風をもたらし続けることが期待されます。
ラーメン山岡家のSWOT分析
コロナの厳しい時期にも、山岡家が安定した売上を維持していた理由を明らかにするために、SWOT分析を実施しました。その結果を以下に示します。
内部環境分析
強み
- ターゲットマッチ
肉体労働者に好まれる味。 - 一貫性
全国の直営店舗と、店内での調理体制で高い品質。 - アクセス利便性
24時間営業と大型車対応の広々とした駐車場。
弱み
- 味のクセ
独特のスープが好き嫌いを生む。 - 都市戦略
都市部への出店展開に課題が存在。
外部環境分析
機会
- 立地
主要道路沿いに位置し、多くのトラックドライバーが通行。 - 法律
トラック運転手の定められた長時間の休憩要件。
- 顧客
熱心なファン「俺たちの山岡家」の存在。
脅威
- 経済動向
好景気の影響での労働力不足と賃金の上昇。 - サプライチェーン
原材料やエネルギーのコスト増加。 - 競合状況
多様な業界からの飲食業界への新規参入による競争の激化。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行いました。
その結果から、以下のような戦略が導かれます。
ラーメン山岡家のクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
・大型車の通行が多い主要道路に位置する店舗展開。
・従業員が客へのサービスに集中できる店内環境作り。
・顧客の快適な利用を促す施設やサービスの提供。(24時間営業、シャワー室など)
・「俺たちの山岡家」という強固なファン層の存在と活用。(口コミやSNSなど)
このような分析の結果から、ラーメン山岡家は、SWOT分析を通じて、独自の強みと機会をうまく活用していることがわかります。
都市部での展開には課題も残りますが、熱心なファンの存在により、これからも市場での存在感を強めていくことが期待されます。
ピーターパンのSWOT分析(パン屋)
千葉のパン屋さん「ピーターパン」は、厳しい競争市場の中で独自の戦略を駆使して成功を収めています。この独自のアプローチを、SWOT分析を通して詳しく探りました。
内部環境分析
強み
- 独自の価値提供
毎日の暮らしに、「ちょっと贅沢、ちょっとおしゃれな食文化」。 - 店内体験販売
パンが焼き上がる製造過程を見ることができる。 - 店舗の演出
ログハウス風のおしゃれな店舗デザインによるブランドイメージ。
弱み
- 一部の店舗の狭さと混雑
駅ナカなどの店舗が狭く、混雑しやすい環境。 - オペレーションの遅さ
混雑時の効率的な対応の欠如。スタッフトレーニングや指導の不足。
外部環境分析
機会
- 地域性(千葉都市部)
便利な生活施設と自然とのバランスがよく暮らしやすい。
脅威
- 競争の激化
パン屋業界の競争が激しいため、他店との差別化を常に追求し続ける必要がある。 - 変動する消費者のニーズ
消費者のニーズやライフスタイルが変わることで、現在の独自戦略が通用しづらくなる可能性もある。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が導かれました。
ピーターパンのクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
地域性の活用
-
- 利便性がよい暮らしやすい地域に出店(千葉都市部)
千葉の快適な生活環境「ちょっと贅沢、ちょっとおしゃれな食文化」を店舗デザインと商品で演出する。
-
- 地域に根ざした戦略を取る
地域の文化やイベントを活用し、ピーターパンの提案するライフスタイルに共感を呼び起こすコミュニティを構築する。
強み×脅威(差別化戦略)
顧客体験の向上
店内体験販売でのパンが焼き上がる製造過程を見ることができるなど、消費者に新しい食体験を提供する。
ブランドコラボ
千葉の他の地域ブランドや観光スポットとのコラボを考え、ログハウス風の店舗デザインを活かした特別な商品やイベントを企画する。
ピーターパンは、千葉都市部の魅力を「機会」としてとらた独自の戦略を展開していることがSWOT分析から伺えます。
競争が激しい業界の中での持続的な成長のために、現状の弱点を克服し、更なる顧客体験の向上を図るべく、進化を続けることでしょう。
フタバフルーツのSWOT分析(青果店)
「フタバフルーツ」は、東京都中野の商店街で、長年にわたり地域の人々に愛されてきた青果店です。
ただの青果店ではなく、従来の青果店から一歩進んで、フルーツをアートとして捉えることで注目を集めました。この独自のアプローチの秘訣を、SWOT分析で掘り下げます。
内部環境分析
強み
- 80年以上の歴史と経験を持つ青果店としての地域の信頼。
- 多種多様なフルーツを使用し、青果店としての専門知識を活かした魅力的な演出。
弱み
- 古くからある街角の青果店。
- 限られた経営リソース。
外部環境分析
機会
- イベントや結婚式などの特別な場面でのケータリング。
- 伝統的な「イベントの食」の枠にとらわれない、新鮮な魅力を求める声。
脅威
- 他のケータリング会社や青果店との競争。
- 似たようなアイデアを取り入れた新規参入企業の出現。
- フルーツや野菜の価格の変動によるコストの不確定性。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられました。
フタバフルーツのクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
- 戦略1
80年の歴史を持つ青果店として、イベントなどでのケータリングサービスを展開する。地域での実績と歴史を強みに、顧客からの信頼を深める。 - 戦略2
多彩なフルーツを組み合わせ、専門知識を活かした魅力的な演出で、伝統的な「イベントの食」の枠にとらわれない新たな楽しさをを提供する。
特に、フルーツをアート作品のように演出することで、他のケータリングとは違うサービスを提供する。
強み×脅威(差別化戦略)
- 戦略3
さまざまなフルーツに関する知識を駆使して、価格の変動に合わせてメニューをを変更する。
これにより、品質を維持し、価格の大きな変動を抑えることで顧客に安定した価格とサービスを提供する。
フタバフルーツは、「十人十色の作品(果実)をより沢山の方々に届ける」というミッションを掲げています。
果物をアート作品として取り扱うことで独自性を生むユニークなビジネスモデルです。
このような革新的な取り組みは、他の伝統的な企業や業界が学ぶべき貴重なモデルと言えます。
『孤独のグルメ』のSWOT分析(TV)
『孤独のグルメ』は、主人公が様々な飲食店で食事を楽しむ様子を描いたテレビ番組です。この番組が人気になった理由を視聴者の観点からSWOT分析します。
内部環境分析
- 共感性
主人公の日常の中の小さな喜びや美味しさに共感して体験することができる。 - 独自性
一人での食事という独自の視点での食体験は他の番組にはない。(極めて個人的な体験) - リアル感
実際の飲食店を訪れて撮影しているため、視聴者が実際にその場所を訪れることができる。 - シンプルさ
複雑なストーリーやドラマ要素が少ないため、食の楽しみに集中できる。
弱み
- 変化の少なさ
同じパターンのストーリー展開であるため、一部の視聴者には物足りなく感じられるかもしれない。 - 限定的なターゲット
一人での食事や、食に対するこだわりを持つ人に特化しているため、幅広い層にはアピールしづらいかもしれない。
外部環境分析
- 意識の動向
「個々の楽しみ方や価値観を尊重する」視聴者の新たな意識の流れ
脅威
- 模倣される
このような独特のフォーマットは、他の番組やメディアに模倣されるリスクがある。 - 飽和する
類似の食に関する番組やコンテンツが増える中で、差別化が難しくなる可能性がある。 - 変化の速さ
視聴者のニーズや嗜好が変わる中で、番組のフォーマットやコンセプトのアップデートが求められることがある。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられました。
『孤独のグルメ』のクロスSWOT分析
強み×機会(積極化戦略)
- 共感と独自性のカスタマイゼーション
主人公の日常の中の小さな喜びや美味しさに共感する視聴者層の好みを詳しく調べ、その好みに合わせた特別番組や、特定の飲食店との共同企画を検討する。
強み×脅威(差別化戦略)
- 独自性と模倣の回避
一人での食事というユニークな点をさらにアピールする。例えば、一人での食事の背後にある気持ちや背景を詳しく取り上げることで、他の似た番組と違った特色を出す。 - シンプルさを活かしたアップデート
番組はシンプルで、複雑なストーリーが少ないが、そのままのシンプルさを保ちながら、視聴者のニーズに応じてすこしづつ内容を調整する。
『孤独のグルメ』のSWOT分析を通じて浮かび上がってきたのは、人々が「周りに合わせる」のではなく「自分らしさ」を重んじる時代が訪れているということです。
この流れは顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)に通じるものがあります。
現代の消費者行動や市場のトレンドは、個人の趣味や価値観に合わせた「個別化」や「カスタマイゼーション」が進んでいると言えます。
スノーピークのSWOT分析(アウトドア)
スノーピークは、高品質なキャンプ用品で有名で、アウトドア愛好者から高い評価を得ています。
そして、成功の要因は、創業理念と優秀な人材にあると考えられます。
そこで、「今後アウトドアが流行る」との前提に立ち戻り、それを「機会」としてSWOT分析を試みました。
スノーピークがどのように自社の「使命と価値観」を「強み」として、アウトドアの人気上昇という「機会」を利用したのでしょうか。
次に、その秘密を探ります。
内部環境分析
- 使命と価値感
「人生に、野遊びを。」をテーマに、人間性の回復を目指す。
スノーピーク自身もユーザーとして製品を使用し、そのフィードバックを基に品質とデザイン性を高める。 - 地域性の利点
世界に名高いものづくりの町で生まれ、その地域の強みを生かす。 - 人材の資質
社員一人ひとりがキャンプを通じ人と人、人と自然をつなぐ仕事に情熱を注ぐ。
弱み
- 価格帯
高品質な製品を提供するため、他のブランドに比べて価格が高めとなっている。 - 市場の限定性
主にアウトドア愛好者やキャンプを楽しむ層に特化している。 - サプライチェーンの弱さ
キャンプシーズンが近づくと、人気商品の在庫が足りなくなることがある。
外部環境分析
- 今後アウトドアの人気が高まる
キャンプやアウトドア活動人口の増加が見込まれる。
脅威
- 競合の増加
アウトドアブームを背景に、多くの新ブランドや製品が市場に登場してくる。 - 市場の飽和
キャンプやアウトドアのブームが一過性である場合、市場の縮小が懸念される。(現在、このような兆候が見られます)。 - 環境問題
アウトドア活動が自然環境に与える影響に対する懸念が高まる中、サステナブル(SDGs)な製品やビジネスモデルの必要性が増してくる。
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられました。
スノーピークのクロスSWOT分析
- 使命と価値 x アウトドア人気の上昇
- ユーザー視点での品質改善
自らもユーザーとして製品を使用し、そのフィードバックを基に品質とデザインを高める。 - 顧客ニーズを深堀した製品
「人生に、野遊びを。」という使命の元、顧客のニーズに即した製品を開発する。
- ユーザー視点での品質改善
- 地域性の利点 x キャンプ人口の増加
- 「ものづくりの町」の高品質な製品
世界的に知られる「ものづくりの町」である利点を生かし、耐久性や機能性などを重視した高品質なキャンプ用品を作る。
- 「ものづくりの町」の高品質な製品
- 人材の資質 x アウトドアの人気上昇
- 顧客体験の向上
スタッフは、顧客が持つマニアックな疑問にも親切・丁寧に応じる。これにより、スノーピークを選ぶ理由を一層強める。 - 疑似体験の提供
店舗内でテント設営講習など、実際のキャンプ体験に近い疑似体験を提供する。これにより、顧客の満足度とリピート購入率を上げる。
- 顧客体験の向上
強み×脅威(差別化戦略)
- 使命と価値 x 競合の増加
- 競合企業が増えても、スノーピークの高品質と独自の価値は顧客に評価され、選ばれる可能性が高い。
- 人材の資質 x 環境問題
- スタッフが持つ「人と自然をつなぐ」情熱は、環境に優しい製品を作る上で大きな役割を果たす。(実際、彼らが焚火台を開発したことで、そのような製品が広まりました)。
スノーピークは「使命と価値観」を大事にしています。
SWOT分析の結果、アウトドアが人気になると、顧客に対するその姿勢が評価され、ブランドとしての地位が上がることがわかりました。
今後もスノーピークは、「強みと機会」、そして「強みと脅威」を上手く組み合わせることで、積極的かつ差別化された戦略で成長を遂げていくでしょう。
コンビニのSWOT分析(高齢者が多い地域)
高齢者の集まる地域で、長らく営業している個人商店が新たに独立系のコンビニ事業を開始する想定で、SWOT分析を行いました。
既存の大手チェーンが競合となる環境で、どのような戦略が有効でしょうか。
内部環境分析
- 地元での強いコミュニティとの繋がり
- 地域に密着したサービスの提供
- 高齢者向けの商品の提供
- 高齢者向けイベントや講習会(健康相談など)
弱み
- 高齢者特有のニーズに対応する必要(広い駐車場、段差のない店内など)
- テクノロジーの導入が難しい(自動決済など)
- ブランド力が低い、資金力が限られる
外部環境分析
- 高齢者の増加によるニーズの拡大
- 地域の団体や施設(デイサービスなど)
- 地域の高齢者が頻繁に訪れる場所(公園、集会所など)
脅威
- 大手チェーンやドラッグストアとの競合(価格競争など)
- オフピーク時間帯の存在(夜間の売上が低い可能性)
- オンラインショッピングや宅配サービスの拡大
- 将来的な高齢者人口の減少(過疎化)
次に上記のSWOT分析から、クロスSWOT分析を行います。
その結果から、以下のような戦略が考えられました。
独立系コンビニのクロスSWOT分析
- 地域密着型サービスの提供
- 店内談話室、健康相談などを開催。
- 高齢者が頻繁に訪れる場所(公園、集会所など)でのポップアップストアや販促活動、移動販売車活用。
- 資金力に依存しない地域密着型のプロモーションや地域の祭りやイベントへの協賛・参加。
- パーソナルサービスに力を入れる
- 商品選びから購入までの手続きを店員が個別にサポートする。
- 高齢者宅への無料配達サービスの提供。(同時に安否確認)
- 高齢者施設との連携強化
- 高齢者施設(デイサービスや老人ホーム)に特化した商品を提供。同時に、特別割引やパッケージも展開する。
- 高齢者施設や団体と連携し、訪問型レクリエーションを開催。
高齢者と一言で言っても、実際にはその要望やニーズはさまざまです。
ここでは、特に注目すべき3つのタイプを紹介します。
- 活力を求める高齢者
アウトドアや旅行に興味があるため、直接店舗に足を運ぶことが少ない。 - 家族と一緒に暮らす高齢者
家族が買い物を代わりにすることが多く、自ら店に出向く機会が少ない。 - 健康志向の高齢者
健康食品や運動に特化した店舗に魅力を感じる傾向がある。
ただ、これら全てのニーズに応える必要はありません。逆に広く浅くの対応では、他店に流れる可能性があります。
そのため、特定のターゲット、例えば「活力を求める高齢者」であれば、そこに焦点を絞り、深くそのニーズに応えることが必要です。
このようにすることで、特定の顧客層からの信頼を深めることができ、結果的に他のターゲット層からも信頼を獲得できます。
特に高齢者が多い地域では、そのニーズに特化したサービスが大きな差別化となり、新しい顧客の獲得に繋がります。
これは、地域内で「高齢者フレンドリーなコンビニ」としての地位を確立し、地域ナンバーワンを目指す戦略です。
そして、その実現のためには、例えば「一人ひとりに寄り添う、快適な暮らし、手の届く場所に。」というミッションを掲げ、それを日々のサービスで実現していくことが重要です。
これらの戦略を実行するには、更にSWOT分析を詳細に行い、戦術としての具体性を持たせる必要があります。
まとめ
小さな会社でも、SWOT分析を利用することで、事業のチャンスと問題点がはっきりします。成長を促進する計画から、リスクを防ぐ計画まで、どう進めるかが明確になります。適切な情報収集と冷静な分析で、より良い経営を目指しましょう。